今日はどんな風が吹くのだろう。 日々の思いを書き留める雑文帳。

by 風懐

世界史

 世界史未履修問題で日本中が騒いでいます。そんな世間の喧噪に母のエピソードを思い出しました…

 母は昭和ひとけた生まれです。私が高校二年になった時、母は買ったばかりの真新しい教科書の中から世界史の教科書を手に取りました。
「見せて」母は言うと一晩、娘の教科書を熱心に読んでいました。翌朝、ありがとう、とだけ言って教科書を返してくれました。
 友達の中でも「面白いお母さん」と言われた母です。いつもの気まぐれくらいにしか思わず、私は教科書を受け取ると高校生活に戻りました。

 しばらくして、母は、何人かの友達を募って「世界史の勉強会」を立ち上げました。
「歴史はシュメールに始まる…」とか何とか言いながら月に一度「世界史の勉強会」とやらに出掛けて行きました。

 「母が友達と世界史の勉強を始めたんです」
 社会科の先生と雑談をしている時に私は何気なく言いました。その先生は私に母の年齢を聞くと、急に真顔になって
「これ、持って帰って。お母さんにプレゼント」と、最新の世界史年表を下さいました。
 帰宅して先生からいただいた世界史年表を母に渡すと、母はとても喜んであれこれと年表を見ていました。

 母の勉強はシュメール文明から始まったものの、素人集団かつひとつの疑問が次の疑問を生み遅々として進まないようです。
 私たちの授業はどんどん進みますので、そんな母たちを冷えた目で見ていました。
 それでも「世界史の勉強会」は、3年ほど続いたでしょうか。仲間の引越しや病気を理由に自然解散したようです。

 随分後になってからです。母が第二次世界大戦中に学生時代を送っていたことに思い当たりました。母たちが習った歴史は、私たちの習った歴史とは違ったのです。私の世界史の教科書を見て本当に驚いたのだと気が付きました。戦争直後、教科書を墨で消した、という体験の持つ意味の重さを知りました。

 今、かつての恩師にいただいた世界史年表は、私の書棚にあります。時々、現役高校生の娘が見ているようです。
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by h_with_the_wind | 2006-11-03 22:20 | 思い出話 | Comments(0)