文の助茶屋

 学生時代、大阪に帰省するとよく京都へ遊びに行きました。
 八坂神社から清水寺への道を何度も歩きました。そしてこの道を通る時には決まって、高台寺の門前にある文の助茶屋で甘酒をいただきました。
 文の助茶屋は、明治の末に落語家の桂文の助が開いた甘味処です。屋外でいただく甘酒は、ショウガがきいていて今頃の季節なら身体がほっこりと温まりました。

 やがて私もそれなりに忙しくなり京都へ遊びに行くことが難しくなった頃から、高台寺の周辺が変わり始めました。「ねねの道」として景観はそのままですが観光客向けの新しい店舗が作られ、人力車が走るようになりました。
 静かな変化はすぐにはわかりませんでした。
 まだ幼かった娘を連れて久しぶりにこの道を歩いた時、文の助茶屋がなくなったことに気が付きました。


 清水寺へ行った帰り道、産寧坂から二年坂へ歩いている途中で、「文の助茶屋」の文字が目に入ったような気がしました。一度行き過ぎて、やっぱり気になるので引き返してみました。
 店舗は新しいけれど、昔のあのお店のようです。
 懐かしさに引かれて入ると、引き返してきた私の様子を見ていたのでしょう。若い店員さんがくすりと笑ったような気がしました。
 その店員さんが注文をとりにきてくれたので、
 いつからここにあるのか、と聞いてみました。
 店員さんは、高台寺の門前から本店が八坂に移ったこと、ここが清水店ということなど笑顔で澱みなく話をしてくれました。きっと私のような客が他にもいるのでしょう。

 私が高台寺のお店に初めて行ったのは、注文をとりにきてくれた娘さんが産まれる前だろうな、と思いながら、砂糖を使わず米麹の甘みを引き出した懐かしい甘酒にタイムスリップした心地でした。
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by h_with_the_wind | 2007-11-20 23:59 | 課外活動


今日はどんな風が吹くのだろう。 日々の思いを書き留める雑文帳。


by 風懐

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