チョコレートとタマネギ

 まだ私がセーラー服を着ていたから、中学生の時です。
 休み時間に、あまり話をしたこともないクラスメートの女の子がやってきて、教室のドアを指差しながら来て欲しい、といいました。そこには、彼女と同じクラブに所属する隣のクラスのナナエが立っていました。
 目立つ子だったのでナナエの名前は知っていましたが、私はそれまで個人的に話をしたこともありませんでした。

 ナナエは、私が近寄っていくとそのまま腕をとって廊下の端までひっぱっていきました。そして、満面に笑みを浮かべて、
 「明日ね、ハシモト君に渡したいものがあるねん。協力してくれへん?」と、言って、持っていた紙袋の口を広げて見せました。つられて覗くと、そこには可愛らしい包装紙に包まれた箱とタマネギがひとつ入っていました。
 明日…? ああ、バレンタインデーか…。

 まだ「友チョコ」なんて言葉はなく、「義理チョコ」も大人たちが職場で交わす会話だった時代です。バレンタインデーは、その頃の私たちにとって「女の子が男の子に告白していい年に一度の日」でした。その底流には、「告白」は男からするもの、という暗黙の了解のようなものがありました。

 私は、ナナエが好きだという隣の席のハシモト君について考えました。生徒会長で背が高くて、成績もスポーツもできる…。でも、私のタイプではないな、というのが結論でした。

 「いいよ。で、タマネギもあげるの?」と、私は興味津々でナナエに聞きました。
 「ちゃうよ」ナナエは、大げさに身をくねらせました。
「あかんかったら、これで泣く!」
 告白の途中でいきなりタマネギを出して泣く? 泣き落とし作戦?

 残念なことにここで次の授業の始業チャイムが鳴りました。

 バレンタインデーになるとあの日のことを思い出します。前日のエピソードが強烈で、当日のことは忘れてしまいました。もしかしたらナナエは、私の手を煩わすことなく本意を遂げたのかもしれません。   ※登場人物は仮名ですが、実話です
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by h_with_the_wind | 2008-02-14 23:59 | 思い出話


今日はどんな風が吹くのだろう。 日々の思いを書き留める雑文帳。


by 風懐

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